秋風のいたずら

とても恥ずかしいのですが、青春小説なんて書いてみました (o-_-o) モジモジ
自分で書いてても「あぁ〜、はずい〜!!」って感じで(笑)
ま、こんな経験は無いんですがね。

   秋風のいたずら
「赤城」
 名前を呼ばれて、斜め前の男子生徒が立ち上がった。出席番号一番なので、全員の視線が集まる。そんな視線を気にしない風に、赤城達哉は先生の前まで行き、テストを受け取る。
「凄いな、九十四点だぞ」
 社会の竹沢が、テストを返すときにそう言うと、クラスがざわめいた。
 赤城は照れ笑いを浮かべながら席に戻る。
「次、石山」
 自分の名前を呼ばれ、立ちあがる。
 たかが紙切れ一枚受け取りにいくのに、心臓は跳ね上がり、足は震えてくる。
 竹沢の前までいって、テストを返してもらう。
 点数に目がいった。
 67点。
 竹沢が、最近落ちてきてるぞ、と言ってきた。
 大きなお世話だ、と言ってやりたかったが、笑って誤魔化して、席に戻った。
 文化祭2週間前、中間テストの三日後だった――。

 その日の放課後、俺と赤城は音楽室にいた。
 赤城と俺は中学に入ってからの友人だが、出席番号一番と二番という事もあって、今では無二の親友と呼べた。
 たまたま二人とも音楽が好きで、しかもアコースティックギターをやっていたので、最初は何となく一緒にやってみない?という感じだったのが、いつの間にやら無くてはならない存在になっていたのだ。
 そして、今年の文化祭――中学最後の文化祭で、二人で歌を唄うことになり、こうして放課後に残っては、練習する毎日を過ごしていた。
「なぁ、赤城」
 俺は調弦をしていた赤城に声をかけた。
「なんでお前って、そんなにテストで良い点取れるんだ?」
 すると彼は笑って、
「普通に勉強しているだけだよ」
 と言った。
「嘘つくなよ。それだけで良い点数なんて取れないって。俺だって普通に勉強してるのにさ」
「でも、やってるものっていったら、お前と同じ通信教材だけだし、お前と同じく塾にはいってないし…」
 そう、俺と赤城は、塾に入っていない、比較的珍しい方なのだ。
「だから、特別な事なんてやってないよ」
 彼は、いつもどうりの笑顔で言った。
「それより、練習しようぜ」
「あぁ、そうだな」
 俺はそれ以上詮索もせず、練習に専念する事にした。
 ジャーン!と、ギターの音が音楽室中に響き渡った。

 次の日、赤城と同じクラスの桜井薫が、付き合っているという噂が立った。
 桜井は、三年三組の中で赤城と一、ニを争う秀才で、しかも可愛い。それでいて高慢ちきな所や人を見下すような所が無く、人当たりも良いのだから、男子にもてないはずが無く、女子からも人気があった。そして俺もまた、その例外ではなかった。
 クラス一番と二番の秀才同士。しかもどちらもルックスが良く、噂を囁きながら、皆が二人の仲を認めるという状態だった。
 しかし、やはり俺には少々、いや、かなり辛かった。自分の好きな人と付き合っているのが、自分の親友なのだから。しかも放課後ごとに顔を見合わせ、練習をしなくてはならない。その時間が、一日で一番長く感じられた。
 赤城も、そんな俺の態度を感じてか、段々と話しかけて来なくなった。そして、それと反比例する様に、赤城と桜井が一緒にいるところを見たという話は、どんどんと耳に飛び込んできた。

 そうこうしている内に1週間が過ぎ、放課後以外、俺と赤城は、顔すら見合わせなくなった。放課後も、出来れば顔を見たくなかった。それでも、唄っているその瞬間だけは、全てを忘れられた。
―――さぁ、今すぐ歩き出そう
―――そうすればきっと、願いは叶うから

 今年の文化祭で唄う曲の、一番好きな部分だった。
 段々と気持ちを込めて唄う。そしてクライマックスへ――という所で、赤城がギターを弾くのをやめた。
「どうしたんだよ」
良い所で止められて、俺は乱暴に訊いた。
「今の所のギターさ、やっぱりこう弾くよりこうの方が良いと思うんだよ」
 といって、赤城は弾き比べて見せる。しかしそれをみて、元々短気の俺はキレた。
「また自慢かよ!お前はなんでも出来るから良いよな!ギターも、勉強も、恋愛もだ!そうやって良い人ぶって、本当は嘲り笑ってるんだろ?どうせお前らにはできないってな!」
 そこまで一息で言い切って、相手を睨み付ける。赤城は口を真一文字に結んだまま、何も言わなかった。
「文化祭はお前一人で出ればいいだろ。俺は帰る」
 俺はギターをケースにしまうと、音楽室を出た。
 赤城は、呼び止めてこなかった。
 ――外に出ると、もう寒くなり出した秋の風が、いたずらに俺に吹きつけてきた。

 ――次の日、俺は赤城と目を合わせることも無く、放課後までを過ごした。
 放課後になるとすぐ、赤城は音楽室に向かった。俺も一瞬、後を追おうとしたが、すぐにやめて、背を向けて階段を降りていった。
 振り返ると、階段がやけに長く大きく見えた。

 ――さらに二日経ち、交わした言葉は両手の指だけで充分に足りるほどだった。そして、その日の放課後――
「あ、石山君?」
「ああ、そうだよ」
 電話がかかってきたので取ってみると、桜井からだった。知らずに、声に力がこもる。
「赤木君と喧嘩したんだって?」
「それがどうかしたか?」
 出来るだけ平静を装う。
「『どうかしたか?』じゃないわよ。石山君、赤城君のことを勘違いしてるのよ。彼は人を見下すような人じゃないわ」
 それを聞いて、俺は少し語勢を強めた。
「何を勘違いしてるって言うんだ?奴はギターも勉強も出来て、しかもお前まで手に入れた。『自分はなんでも出来て、あいつらはなにも出来ない』って、嘲り笑ってるに決まってるじゃないか。人間ならそう思って当然だしな」
 一瞬、沈黙が時を支配する。
「…石山君、赤城君のことそんな風に思ってたんだ」
 返答に詰まった。――やはりどこかに、後ろめたい気持ちがあるのだろう。
 また、静寂が訪れる。
 先に口を開いたのは、桜井だった。
「石山君、今から赤城君の家に行きな」
「は?急になにを言い出すんだ?」
「いいから、赤城君の家に行って」
 桜井は強く言ってくる。
「何でさ?」
「いいから行って!いいわね?切るわよ」
 それだけ言うと、彼女は一方的に電話を切ってしまった。

 俺は思案の末、赤城の家に行くだけ行ってみる事にした。
 自転車で、赤く染まった街の中を走り抜ける。かなりのスピードを出しているので身体は熱く、風は冷たいが心地よかった。
 三分ほど飛ばすと、赤城の家が見えてくる。辺りでは一番大きいであろう一軒家だ。
 家の前に邪魔にならないように自転車を置き、インターホンを押す。
 今まで何度となくやってきた動作を、身体が勝手にやってくれる。それをたった一度の喧嘩なんかでやめてしまうのが、どこか寂しい気もした。
「どちら様でしょう?」
 感傷に浸る間もなく、声が聞こえてくる。
「あ、石山です」
「あら、石山君。ごめんなさいね、達哉、まだ帰ってないのよ」
「あ、そうなんですか?」
 分かり切っていたにも関わらず、そう応えていた。
「いつ帰ってくるか分からないけど、上がって待ってらしたら?」
「じゃあ、そうさせてもらいます」
 桜井が、赤城の家に行けと言うからには、中まで入ったほうがいいと思い、赤城の母親の提案に乗る事にした。
「お邪魔します」
 呟くように言って、靴を脱ぐ。
「じゃあ、達哉の部屋で待っててもらえます?」
「あ、はい。分かりました」
 言われた通りに、高そうな絨毯を伝って、赤城の部屋まで行く。
 俺はゆっくりとドアを開けた。
 ――今までに何度この部屋を訪れただろう?十回や二十回では済まない事だけは確かだ。一番最近で来たのは、二週間ほど前だったろうか?赤城の部屋は前来たときと全く変わりなかった。敢えて挙げるとすれば、赤城のギターがここに無いことだけだろう。
 おずおずと部屋の中へ入る。ふと、広い部屋の片隅の、机の上に置いてあるノートに目がいった。
「ん…?」
 整然と片付けられた部屋と同じく、机の上もきちんと整頓されている。その机の上に、ノートがぽつんと置いてあったのだ。
 俺は何の気なしに机の側まで歩み寄って、ノートを手に取る――。

「それでは、次は個人単位で発表してもらう、有志ステージ、午前の部です!」
 司会のハイテンションな声に、生徒全員が湧き立った。
 所々から口笛が聞こえるかと思えば、「よっ!日本一!」といった、場違いな声も聞こえる。
 俺はそんな観客を横目に、ステージへと足を速めた。
「一番手は三年二組の鈴木君です!鈴木君、ど〜ぞ〜!」
 司会は観客の反応に一層テンションを高めている。
 ステージ横に近づくと、うっすらと人影が見える。赤城が、準備をしているのが分かった。
 スポットの邪魔にならないように気を付けながら、赤城のもとへと歩み寄った。
「赤城」
 小さな声で呼びかけると、赤城が驚いたようにこっちを見た。
 俺は、肩にかけていたギターケースを赤城に見せた。そして、二人同時に頷く。――もうそれ以上、言葉は必要なかった。
 ギターを取り出すと同時に、司会の声。
「鈴木君、ありがとうございました。さて次は、歌もうまけりゃギターもうまい。申し分なく聴けると思います。三年三組の赤城君と石山君のお二人で〜す!」
 俺と赤城は、もう一度頷きあうと、光の当たるステージの上へと上がっていった――。

「これは――」
 俺は机の上にあった赤城のノートを開き、中を見て愕然とした。
 そのノートに書いてあったもの――隙間ないほどにびっしりと書かれた文字は、全てがギターを弾くときのコツや注意点だったのだ。
 俺はすぐに、机の上の他のノートも見た。
 国語、数学、理科、社会、英語。
 どのノートもびっしりと書きこんである。
 これが何を物語っているか、俺ですら、わかった。そして同時に、自分が恥ずかしくなった。
 努力によって得た結果を、その人の才能だと決めつけて、自分には才能が無いとか言って、誤魔化してきたのだ。
 もう、その日に、赤城と顔を合わせることなど、出来はしなかった。
 すぐさま上着を抱えて、逃げる様に赤城の部屋を抜け出た。
 赤城の親に見付からないように家の外へ出ると、自転車の鍵をはずす。そのはずす動作すら、もどかしい。鍵が外れると、自転車にまたがって、走り出した。
 来るとき以上のスピードで、出来るだけ早く、赤城の家から離れたかった。そんな時に限って、秋の風は向かい風だった。

 ――歓声が湧き上がる。それと同時に、じわじわと実感も湧いてきた。
「やったな」
 赤城がこっちを見て言った。――満面の笑顔だ。
「あぁ、やったんだな」
 赤城は頷くと、俺にステージを降りるように促した。
 ステージを降りても、歓声はしばらく続いた。
 俺は、ステージを降りると同時に、足が震え出していた。
「こんなにうまくいくなんてな…」
 赤城が、誰に言うでもなく呟く。
 次第に、歓声も小さくなっていく。そしてまるで、風が過ぎ去っていくかのように、歓声は消えてしまった。
「いやぁ、すばらしい歌でしたねぇ。それではお次は、二年二組の高原さんです。どうぞ〜!」
 司会は、相変わらずのハイテンションで、一人浮いているのも気付かずに進めていく。
 何も気付かないのも、幸せな事かもしれないな、と、俺は思った。

 ――数日後、俺は学校帰りに、赤城の母親と会った。
「こんにちは」
 俺が挨拶すると、赤城の母親――確か、君江さんと言った――は、にこやかに、
「あら、こんにちは」
 と返してくれた。
「その後、うちの子とはうまくいってるかしら?」
 唐突に、君江さんが訊いてきた。
「え?」
「達哉と、一度喧嘩なさったんでしょう?」
 なぜ知っているのか疑問に思ったが、嘘をつく必要も無いので、「あ、はい」と答えておいた。
「でも、なぜそれを?」
「知っているのかって?」
 と、君江さんは悪戯っぽく笑って、「あなた達のクラスの桜井さん、知ってるでしょう?」
「えぇ」
「彼女から突然電話がってね、石山君と達哉を仲直りさせるのを手伝って欲しいって、頼まれたの。それで、達哉の部屋に石山君を上がらせて、達哉の机の上に適当なノートを置いておいて暮れって言われて、その通りにしておいたの。そうしたら、桜井さんの考えた通り、あなたはうちを飛び出していったってわけ」
 …何ということだろう。出ていく所をバッチリ見られていたとは…。いや、それ以前に、全て桜井の計画通りだったとは…。――俺って、そんなに分かりやすいかしら?
「でも、彼女を怒っちゃダメよ。あなた達のことを思ってやった事なんだから」
「分かってますよ。僕がいくら単純でも、それぐらいはね」
 俺がそう言い切ると、君江さんは「フフ」と笑った。
「それからね、誰かと誰かが付き合ってるっていう噂が、ニ・三日で急に広がったら、まずそれはデマよ。そして、そのデマを流したのは本人、それも女の子の方だわ。その理由は、相手、つまり、噂の中の男の子の方の一番親しい人に、振り向いて欲しいから。それが、女の子の心理作戦の一つよ」
 君江さんは、何を思ったか突然一般論を語りだした。
 おれは、その意味を理解するのに1分以上かかった。そして、その本当の意味が分かった時、俺の顔は、きっと耳まで真っ赤になっていただろう。
「それじゃあ、またいつでもうちに遊びに来てね」
 と言うと、君江さんはたおやかに歩いて行ってしまった…。
 ――木々や風が、冬仕度をしている中、俺には、一足早く春がやって来そうだ。

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