無題(笑)
「盗まれた!!」
教室中に吉野の声が響き渡った。
みんなの視線がいっせい一斉に吉野に集まる。何事かと、近くにいた松本が声をかける。
「どうした、吉野?」
「俺の財布がないんだ」
「財布が?いくらはいってたんだよ」
「…」
吉野は少し躊躇った後、「百五十円」
と小さな声で言った。
「小学生かお前は!!」
と、松本がつっこむ。
「そら、犯人のほうが可哀相だな」
と、担任の北原まで酷いことを言い出す始末。吉野は自分が犯人かのように小さくなっていた。
「しかし最近本当に財布がなくなる事件が多いよな」
西が口を挟んだ。「俺もこの前なくなったんだ。あんまり入ってなかったのがせめてもの救いだったけどな」
西がそう言うと、みんなが口々に「俺も」「私も」と言い出した。
「じゃあ、まずはその被害状況の確認からしましょう」
と、クラスの人気者(?)、阿部が提案した。皆もそれにしたがい、阿部に自分の盗まれたものを言っていった。
「それじゃあ、財布を盗まれたのが五人、他にアクセサリーを盗まれたのが四人ですね」
阿部の言葉に、その九人が頷いた。
「う〜んと…」
阿部は腕組みをしてしばし考えると、ウンと自分の考えに頷いて、みんなに話し始めた。
「えっと、まず確認をしておきますが、みんな体育の時間に盗まれたんですね?」
全員うなず頷く。
「じゃあ、犯人がここの生徒もしくは先生であればはその時間に授業を受けていない人間ということになりますね」
阿部は皆を見回した。
「しかしそんな人間は多分いないでしょう」
えっ、と言う顔の全員を見回して、阿部は得意げに指を立て、外を指した。
「犯人は、カラスです」
一瞬、静寂が走る。
「な、何でそんな事が分かるんだ?」
松本が驚いて阿部に訊いた。
阿部はもったいぶったように指を振って、
「だって、他にないじゃないですか」
と言った。そして、机の上にあった何か動物の毛のようなものを掴むと、みんなの見える位置まで持ち上げた。
「これを見てください。これは動物の毛です。それも、鳥類のね。」
皆がざわめいた。
「カラスは光るものに敏感に反応しますから、きっと財布などについていたキーホルダーに興味を示したんでしょう。今は夏なので窓も開け放ってますし。でも、きっと財布は帰ってこないですね、残念ですけど」
盗まれた九人はがっくりとしていたが、事件は一応解決した…。