コールの旅 〜心配性の男〜






 一面の緑。

 風が走るたびにそれに合わせて色が揺れ、曲線が地面を這って行くようだった。

 草原は果てしなく続き、所々に気付いたように樹が生えていた。更に遠くを見れば森が見えたが、到底一日で届く距離とは思えなかった。

 草原の中を一本の道が通っていた。いや、道と呼ぶには抵抗があるほどの、獣道のような細い道だった。恐らく、旅人たちが踏み固めて作られた道なのだろう。

 その道をゆっくりと行く者があった。馬と、それに乗る一人の人間。

 馬は、荷物の運搬などより走る方が向いているのであろう、細くて長い四肢を持っていた。毛は栗毛で、鬣と尻尾はサラサラと流れていた。

 それに乗るのは、馬に似合った細身の人間だった。ジーンズを履き、白いシャツに黒いジャケットを着ていた。太目のベルトにはホルスターが付けられ、当然ながらそこには一丁の拳銃が納められていた。

 その人間は、どこまでも青い空を見上げて呟いた。

「……怖いぐらいに青いわね」

 同調するように、馬が一声啼いた。

 ――ふと、道の途中で誰かが座り込んでいるのに気付いた。

 体躯はかなり細く、しかも小さい。茶色のパンツにこげ茶の革ジャケットを着て、防寒用の耳垂れのついた帽子を被っていた。側にはその人のものらしい皮製で大きめの鞄が一つ。

「――坊や、どうかしたの?」

 馬の上から声を掛けると、その人物は驚いたように振り返った。やはり十代半ばの少年であるらしかった。

「あ、えっと……ちょっと休憩を」

 少年ははにかみ笑いを見せて、そう答えた。

「随分とお若い旅人さんね」

「えぇ、まぁ……」

 少年は曖昧に肯いた。

「――どこまで行くの? 乗せてってあげるわよ」

 女がそう言うと、少年はえっ、と言う顔をして、

「そんな、わざわざ良いですよ」

 と首を振った。

「でも、ここから一番近い街でもアリスに乗って5時間はかかるわよ? ――あ、アリスって言うのはこの子のことね」

 と、女は馬の首を軽く叩いてやった。それに応じて馬も嬉しそうに啼く。

「そう、なんですよね……」

 少年は少し思案した後、「――じゃあ、お言葉に甘えて、シェラードまで」

 と言った。




「――私の名前はサラ。君は?」

 少年を馬に乗せると、手綱を取って馬を進ませながら、女は聞いた。

「えっと、コールです」

「コール、良い名前ね。コール君はシェラードに行ってどうするつもりなの?」

「どうする、と言う予定はないです。目的のない旅ですから。――サラさんは何をなさってるんですか? 見たところ僕と歳も変わらないようですけど」

 それにサラは、

「そうよ、まだ二十代にはなってないもの」

 と、笑って答えた。

「私はこの辺りの保安官なのよ」

「保安官ですか! すごいですね。じゃあ、当然拳銃の腕前は有段者なんですか?」

「そうよ、今は三段。毎日欠かさず訓練もしてるわ。――ところでコール君、君は一人で、それも歩いて旅をしているの?」

「えぇ、まぁ……」

「バイクか何か使う気はないの?」

「お金がないから、買えないんですよ」

 と、コールは至極当然のことを言った。

「でもそれじゃあ、次の街まで何日も掛かって大変でしょう? 本当はもっと多くの街を回りたいんじゃないの?」

「えぇ、それはもちろん……」

 コールがそう答えると、サラはニヤッと笑って、

「じゃあ決まりだわ。私が何とかバイクを用意してあげる」

「え、そんな、良いですよ」

 コールが驚いて断ると、

「良いの良いの、私に任せときなさい。それより、しっかり掴まって!」

 サラはそう言うと、アリスの腹を軽く蹴り、アリスは颯爽と走りだした。

 コールが「うわぁ」と小さく声を上げた。




「着いたわ、ここがシェラードよ」

 コールはサラに支えてもらってアリスから降りると、街を眺めた。

「噂に聞いていたとおり、賑やかな街ですね」

「そうね、この辺りの街のちょうど真ん中あたりにあるから、交易とかも盛んなのよ。――その分、犯罪も多いんだけどね」

 街の建物はほぼ木造のみで、重厚さや歴史はあまり感じられなかった。しかし、もう夕暮れだと言うのに街中には多くの人が溢れ、馬や車、荷車が行き交っていた。街灯も整備され、夜の闇は感じさせないほどだった。

「確かに、交易で栄えている街らしいですね」

「そうね、農業じゃあこういう雰囲気にはならないわ」

「――工業でもね」

 と、男が一人やってきて言った。

「あら、モーガンさん」

 サラがモーガンと呼んだ男は、その大きくなった腹をさすりながら、

「こちらは旅の人かな?」

 とサラに聞いた。

「えぇ、歩いて旅をしてるって言うコール君よ」

「こんにちは、コールです」

 サラに紹介されて、コールは進み出て手を差し出した。するとモーガンは一瞬後ずさりして、

「あ、あぁ……よろしく」

 と握手した。

「モーガンさんはこの街で安宿をやってるから、泊めてもらうと良いわ」

「そうなんですか。それはありがたいです」

「あぁ、ま、任せてくれ……」

「こっちよ」

 サラの先導に従い、3人はモーガンの宿へと向かった。




 二階の部屋に入り鞄を投げ出すと、コールはベッドの上に倒れこんだ。

「――痛い!」

 と、鞄が叫んだ。いや、鞄の中で何かが叫んだ。

「あ、ごめんごめん、すっかり忘れてたよ」

 コールはそう言いながら鞄を開けて声の主を出した。

 それは小さい白い毛玉のようだった。一見するとハムスターか何かとも取れるが、しかし背中には小さな、とても飛ぶために付いているとは思えない羽根が生えている。

「全く、人が気持ちよく寝てるときに……」

 コールの手の上に収まったまま、それは不満を述べた。

 コール自身も、それがなんであるかよく分からなかった。旅に出て少しした頃に、道中で出会ったのだ。

「だから、ごめんって謝ってるだろう? それともパムは、僕に何を望むって言うんだい?」

 パムと呼ばれたそれは、しばらく考えてから、

「安眠できる環境」

 と答えた。

「あれだけ寝てまだ寝るのかよ」

 と、コールはパムに聞こえないように言った。




 パムは道中もずっと寝ていたにも関わらずに寝続けると言うので、コールは夜の街に出てみることにした。

 一階で何か書類を書いていたモーガンに、ちょっと出かけてきますと声を掛けて、コールは外に出た。

「――コール君!」

 コールがどちらに行ってみようかと思っていると、サラが駆けて来るのが見えた。

「どうしたんですか、サラさん?」

「ちょうど誘おうかと思ってたところなのよ。一杯どう?」

「いえ、お酒はあんまり……」

「あなたは何か違うものを飲めば良いわ」

 とサラが笑うので、それなら、とコールも乗った。




 酒場に着くと、何人もの男たちが酒を飲みながら談笑していた。女性の姿はない。交易商は体力勝負でもあるため、男が圧倒的に多いのだ。そんなところでも、サラは気後れせずにぐんぐんと入っていって、カウンターにコールを座らせて、自分も隣に座った。

「よぉ、姉ちゃん、なかなか可愛い顔してるじゃねぇか。俺たちとイイコトしないか?」

 一人の酒に酔った大男が、サラに言い寄ってきた。サラはあからさまに鬱陶しいという顔を向けると、

「あんたみたいのは好みじゃないよ」

 と言い放った。

「あんだとぉ? こんなガキと遊んでる方が楽しいってのか!?」

 男はコールの肩を掴んで後ろに放り投げた。コールの体はいともたやすく飛んで、後ろにあったテーブルの上に背中から着地した。

 男は飛んでいったコールを見て満足げに笑うと、サラの方を振り返った。

 ――ガチャ。

「……え?」

 男の鼻先には、銀色に光る筒先が向けられていた。撃鉄は起こされ、あとは引き金を引くだけの状態だ。

 リボルバータイプのそれを持ったサラは、優しく言った。

「今すぐに、ここから出て行きなさい」

 男と、その取り巻きと思われる男たちは、声を上げながら慌てて店を出て行った。

「ふぅ……。大丈夫、コール君?」

「えぇ、なんとか……」

 コールは頭をさすりながらテーブルの上から下りた。

「ごめんね、私のせいでこんな目に遭っちゃって。どこか痛む?」

「いえ、体重が軽くて助かりましたよ」

 と、コールは少しおどけて言った。




「一つ聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」

 コールが、ビールをジョッキでぐいぐいと飲み干していくサラに聞いた。

「えぇ、良いわよ。もちろん」

 と、サラは軽く舌が回らなくなり始めた口で答えた。

「モーガンさん、なんだか僕を避けてたみたいなんですけど、何でか分かりますか?」

「あぁ、彼ね」

 サラはマスターにビールの追加を頼むと、「――彼はね、ひどく心配性なのよ」

「心配性?」

「そうなの。――あぁ、ありがと、マスター」

 ビールを受け取り、サラは一口飲んだ。

「彼はね、この街の生まれなの」

「……それが、どうかしたんですか?」

 コールは何が不思議なのかといった顔で促した。

「この街はここ数年でこんなに発展した街でね、元は他の街と同じで農業で生活してたのよ。それが、旅人たちが訪れるようになって、段々と人が集まるようになった。しかも、ちょうど良い事に周りの街にはそれぞれちょっと変わった珍しいものがあったのね。南のカーラントではダイヤが良く採れたし、東のアスラードでは絹の生産が盛んだった。そのお陰で――いえ、そのせいでと言うべきかしら。多くの交易商がやってきて、この街に居座るようになったのよ」

「それはいけないことなんですか?」

「それ自体は良いのよ。発展してくれるのにはシェラードの人たちも賛成だったの。でも、彼らの数が増えるに従って、住む所が減ってきた。そうすると、彼らは元から住んでいた人たちを追い出しにかかったの」

「追い出しに?」

 コールは口に含もうとした水の入ったグラスを、空中で止めた。

「そう。お金で家を買い取るのならまだ良い方だった。嫌がらせをして出て行くように仕向けたり、ひどいときには無理矢理押し入って出て行かせたこともあるらしいの。いずれも、私が居ないときに起こった事で、後からでは何もできなかったわ……」

 と、サラは哀しげな顔を見せた。

「――そうやって、ほとんどの人たちは家を追われて、近くの町に移って行ったわ。今では元からこの街に住んでいるのは、モーガンと、数人を残すだけなの」

「そうなんですか……。――でも、それがどう心配性と繋がるんです?」

 コールが聞くと、サラはコールの方を見て、

「彼は常に怯えているのよ。自分もこの街を追い出されるのではないかって。だから、余所者にはとても警戒してしまうの。悪気があるわけじゃないのよ」

 だから許してあげてね、とサラは付け加えた。

「そうだったんですか……。分かりました、気にしないようにします」

「ありがとう」

 サラは笑った。




 朝早く、コールは息苦しさを感じて目が覚めた。

「コール、早く僕のご飯を作ってくれよ!」

 息苦しさの原因は、顔の上にいたパムだった。

「ご飯って……まだ日が昇り始めたばかりじゃないか」

 パムを顔の上からどかして、コールは目を擦りながら言った。

「僕は昨日何も食べてないからお腹が減ったんだよ!」

「それは君がずっと寝てたからじゃないか。僕は夕飯のときに君を起こしてやったのに……」

「良いから早く! 飢え死にしちまうよ」

「はいはい、分かったよ……」

 コールは仕方なく起き上がると、鞄の中から携帯食料と鉄製の皿を取り出し、皿の上で携帯食料を砕いた。

「ほら」

 コールが皿を差し出すと、パムは小さな羽根をバタつかせて飛んで来た。その姿が面白く、コールは笑った。

「何だよ、人のことを笑うなよ」

 と、頬を膨らませて――食べ物で――不平を言った。

「パム、食べながら喋るなよ」

 コールはパムを嗜めると、パムが乗ったままの皿を机に置いた。

「じゃあ、僕はまた寝るから」

 パムはそれには答えなかった。口の中に大量の食料を詰め込んでいた。




 二度目に起きた時、コールはパムがいないことに気付いた。

「パム……?」

 部屋の中を見回してみたがどこにもいなかった。くず入れの中や家具の裏まで探したが、やはり同じことだった。

「どこかに出かけたのか……?」

 コールは少し心配になり、外に見に行くことにした。

 ――その前に、しっかりと朝食は摂った。




「――あ、サラさん!」

 朝から賑わう街の人混みの中に知った顔を見つけて、コールは叫んだ。

「あら、コール君。今日はどうする予定なの?」

「いえ、特に予定はなかったんですけど、ちょっと知り合いがどこかに行っちゃったもので、彼を探そうかと」

「知り合いって、あなた一人だったじゃない」

 サラは不思議そうに聞いた。

「いえ、知り合いと言っても人じゃなくて、鞄の中にいたんですよ」

「あぁ、ペットね。どんな子なの? 私も探してあげるわ」

「いえ、ペットでは……」

 とコールは言いかけたが、別に良いかと気を取り直した。「――えぇ、そんなところです。白くて、ハムスターみたいなやつなんですけど……」

「小さいのね?」

「えぇ、とても」

「そう……そしたら、もしかしたら奴らかも」

 サラは腕を組んで、独り言のように言った。

「奴らと言うのは?」

「うん、そういう小動物とかが、今は他の街とかで人気があってね、高く売れるのよ。この辺りにはあまりいないからね。それで、そういう小動物専門の業者が、どこかの家で飼われてるのを、盗んできたりしているらしいの。もしかしたらそいつらに見付かって連れて行かれたのかもしれないわ」

「じゃあ、連れて行かれて、売られちゃうってことですか……?」

「えぇ、そういうことになるわね……」

「そんな……」

 と、コールは項垂れた。

「大丈夫よ、幾つか心当たりがあるから、そこに行ってみれば見付かるわよ」

「本当ですか?」

 と、コールは上目遣いでサラに聞いた。

「えぇ、任せておきなさい」

 サラは胸を張って答えた。




 パム探しはペット屋の三軒目に入っていた。

「――ホセ! ホセはいる!?」

 サラが店の奥に呼びかけると、奥から銀縁の丸眼鏡をかけたひょろ長い男が現れた。

「おや、これはこれは麗しの保安官ではないですか。弟さんでも連れて、ペットでもお探しですかな?」

 ホセと呼ばれた男は嫌な笑みを浮かべながらサラに近付いた。

「えぇ、まぁね。――白い小さいのが良いんだけど、いるかしら?」

 サラが真っ直ぐと見返しながら言うと、ホセは驚いて見せ、

「ちょうどいいのが入ったところですよ! お待ちなさい、今持ってきますから」

 と、店の奥へ戻っていった。

「当たりみたいね」

「えぇ、そうですね」

 コールは拳を強く握った。

「落ち着いて」

 コールの緊張を見て取ったサラが、コールの肩に手を置いた。

「――ハイハイハイ、こちらです。珍しいやつですよ〜」

 ホセが抱えてきたのは布がかけられた箱のようなものだった。檻なのだろう。

「取って良いのかしら?」

「えぇ、もちろんですとも」

 サラは檻にかけられた布を外した。コールが勢い込んで覗き込むと、中には白く丸まったパムの姿があった。

「パム!」

 コールが呼びかけると、パムはもぞもぞと動いて、

「何だよコール、人が気持ちよく寝てるのに……」

 と、顔を上げた。

「あれ、何で僕、こんな檻の中に……?」

「な、なんなんだ、お前は!」

 ホセがコールの突然の行動に驚いて聞くと、

「この子の飼い主よ」

 と、パムを指差した。

「僕がコールに飼われてる? 冗談じゃない!」

 パムは憤慨していたが、サラはホセを睨みつけることで忙しかった。

「何をバカなことを! こいつは私が道端で見つけて拾ってきたんだぞ!」

「理由はどうであれ、元の持ち主はコール君なの。返してあげなさい」

「僕は誰の物でもない!」

「パム、悪いけど黙っててくれないか? 話がややこしくなるから……」

 コールは呆れてパムを宥めた。

「誰が返すかっ!」

 と、ホセは檻を抱え込んだ。

 ――ガチャ。

「……返してあげなさい?」

 サラは拳銃を向けたまま、優しく言った……。




「ところでパム、君は何で彼に捕まったのか、覚えているのかい?」

「ううん、全然」

 コールがパムに聞くと、パムは気持ちよく首を振った。

「コールを起こしてご飯を食べて、それから外に出てみたんだ。そしたら、ちょうどふかふかの綿のベッドがあったから、そこで眠っちゃったんだ」

「綿のベッド?」

 コールが聞き返すと、

「多分、綿を積んだ荷車じゃないかしら」

 と、サラが言った。

「なるほど、そしたらあとは寝たままのパムをホセさんが見つけて、連れて帰ったと。連れてかれちゃってもおかしくないな」

「えへへ」

「えへへじゃない! どれだけ心配したか分かってるのか?」

 コールが怒ると、パムは小さくなって、

「ごめん……」

 と謝った。

「まぁ、無事だったんだから良いんだけど。――もう勝手にどっか行ったりしないでくれよ?」

「はぁい」

 と、パムは元気よく返事した。

「じゃあ、お昼でも食べたらコール君のバイクでも探しに行きましょうか」

「あ、はい」

 サラに連れられて、コールとパムは近くのレストランに向かった。




「うわぁ、たくさんありますね……」

 モーターサイクルショップと書かれた見せの前に並べられたバイクを見て、コールが驚嘆の声を上げた。

「どれでも好きなのを選んで良いわよ。父の財産のお陰でお金はあるから」

 そうは言われてもなぁと思いつつ、コールはバイクを見て回った。

「――すいません、これ、幾らですか?」

 コールは店の隅に置いてあった一台のバイクを指して聞いた。

「それ? そいつは売り物じゃないよ。大体が動かないんだから」

「直したら動くと思うんですけど……」

 コールが言うと、サラが、

「そんなボロいのじゃなくて、もっと良いのを買いなさいよ。遠慮しなくて良いのよ?」

 と言った。

「そりゃまぁ、直せるんなら……金はいらないよ。道具も必要なら貸してやろう。直せるんならな」

 店のオーナーはそう言うと、工具箱などを出してきてくれた。

「ホントですか? ありがとうございます!」

 コールは礼を言うと、早速それを直しに掛かった。




「――分かんないなぁ。何でわざわざそんなのを直してまで欲しいと思うの?」

 サラがバイクを直すコールに向かって聞いた。

「なんか、こいつに呼ばれた気がして。『まだ走りたいんだ』って言ってる気がしたんです」

「ふ〜ん……分かんないわ」

 サラは呆れてしまい、パムと遊び始めた。

「えっと……ここが詰まってるな……」

 ――日が暮れるまでかかり、バイクは現役の頃の輝きを取り戻した。




「――ふぅ、お腹一杯」

 コールは夕飯を食べて部屋に戻ってくると、ベッドに寝転んだ。

「なかなかいけてたね」

 パムも満足そうに言って、テーブルの上に降りた。

「でも、この街はあまり面白くはなかったかもなぁ」

「そうかい? 僕は気持ちよく過ごせたけど」

「それはほとんど寝ていたからだろう?」

 コールは呆れて言った。

「まぁ、良いバイクが見付かったから良いけどね」

「あれ、本当に動くの?」

「僕が直したんだから大丈夫だよ」

 コールが言うと、パムはすかさず、

「だから心配なんじゃないか」

 と言った。




 次の日の朝、コールとパムは出発の準備を始めた。朝食を摂ってから、食料や薬草などを買い、鞄に詰めた。

 一階に降りると、入り口にサラがいた。

「サラさん――」

 見送りに来てくれたんですか、と言おうとして、コールは止まった。

 背中に、固いものが押し当てられていた。

「どうしたの、コール君?」

 サラが怪訝な顔で聞いた。

「運がなかったな、旅の人」

 モーガンが、コールの後ろに立っていた。

「モーガンさん……どういうこと?」

 モーガンがコールの背中に突きつけていた銃を、コールのこめかみに当てた。

「……っ!」

 サラは息を呑んだ。

「サラ、君にして欲しいことがあるんだ。だから、こんな手荒な真似を……許してくれ」

「……して欲しいことって言うのは?」

 サラは努めて冷静に聞いた。

「この街に巣くう虫けらどもの駆除及び排除だ。元から住んでいた住人以外を、この街からいなくなるようにして欲しい。やつらがいなくなるのなら、方法は問わない」

「そんな、無茶な……!」

「無茶なことはないだろう。君にはお父さんの財産もあるし、拳銃の腕だってある。方法はいろいろあるはずだが?」

 二人のやり取りを、コールは黙って聞いていた。

「……」

「私は、この街が、この街の人間の手から奪われることを恐れているんだ……。いざとなれば、私も力を貸す。ホセも、他の元からの住人も、力を貸してくれると言っている。……サラ、我々の手伝いをしてくれないか?」

「ホセも……? 彼はここの元からの住人じゃないんじゃ……」

「私はモーガンさんたちが可愛そうだと思って協力してるんですよ」

 奥からホセが、あの嫌な笑みを浮かべて現れた。

「本当は、パム君を手に入れたいだけなんですがね……」

「ホセ、何のことだ? パムというのは――」

 ――バン!

 モーガンがホセの方を振り向いた瞬間、モーガンの頭が不自然に後ろに弾けた。

「モーガンさん!」

 サラが駆け寄ろうとしたが、ホセが制止した。

「動くな! このガキが死んでも良いのか?」

「くっ、ホセ……!」

 ホセはフッと笑ってサラを見ると、目と銃口を下に向けてコールに言った。

「ホラ、死にたくなかったら君のお友達を出しなさい」

 コールはホセの顔をじっと見ていた。

「どうした、おい。早く出せってんだよ!」

「……おじさん、早死にするタイプだね」

「なんだと?」

「だって、今死ぬんだもん」

 コールはそう言うと、右手を動かした。

 スッと風を切る音がして、更に木の板にナイフが刺さるような音がした。

「え……」

 サラとホセの声が重なり、ホセの体が後ろに仰け反った。

 ホセの額に、ナイフが突き刺さっていた。




「――びっくりしたわ、まさかコール君がナイフの使い手なんて。人は見かけによらないものね」

 街の出口で、サラは感嘆の意を述べた。

「それは、サラさんだって同じですよ」

 と、コールは少し照れながら答えた。

「それにしても、また元からの街の住人が減っちゃいましたね」

「そうね、でもまぁ、それでも街は街なのよ」

「そうですね」

「――コール、そろそろ行かないの?」

 パムがコールのジャケットの胸ポケットから顔を出して聞いた。

「そうだな、そろそろ行こうか」

 コールはそう言うと、バイクのエンジンをふかした。

「また、会えるかしら?」

「そうですね……世界がそんなに広くなければ」

 コールはそう答えた。

「そうね、じゃあ……さよなら」

「えぇ、さよなら」

「バイバイ、綺麗なお姉さん」

 パムの言葉にサラはふっと笑顔をこぼした。

 バイクは軽快な音をたてながら走り出した。

 コールは振り返らず、すぐにコールの姿はサラから見えなくなっていた。




「――ねぇ、コール」

「なんだい、パム?」

「誰だっけ、僕が直したんだから大丈夫とか言ってたの」

 バイクを押して歩いているコールに向かって、パムが聞いた。

「壊れたんじゃないよ。ただのガス欠」

「似たようなもんだよ」

 コールは心外だという顔で、

「全然違うじゃないか。ガソリンさえ入れればこいつは走ってくれるんだから」

「何でも良いけど、次の街まであとどれくらいなのさ?」

「さぁ……。まぁ、ゴーグルがないと例え走れても目が痛くてとてもじゃないけど乗ってられないのが分かったし、のんびり行けば良いじゃないか」

「……何でも良いけどさ。僕は君なんかと一緒に死にたくないからね」

「ひどいこと言うなぁ」

 二人はそんなやり取りをしながら、草原の中の小道をゆっくりと進んでいった――。




   了

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